湘南鎌倉総合病院 先端医療センター

Proton Therapy陽子線治療

陽子線Q&A

Q01陽子線とは何でしょうか?

水素の原子核である陽子を加速したものが陽子線です。その陽子線を使用した治療が陽子線治療です。

Q02陽子線治療と従来の放射線治療との違いは?

陽子線治療も放射線治療の1つの種類です。従来の放射線治療はX線やγ線という光子線を使用しますが、陽子線治療は陽子線(Q01参照)を使用します。

Q03粒子線治療とは?

粒子線は、高エネルギー原子核の流れのことであり、原子の種類に応じた種類があります。例としては、陽子線、速中性子線、重粒子線(炭素、ネオン、アルゴン等)があげられます。その粒子線を使用した治療が粒子線治療です。現在治療に使用されている粒子線は2種類で、原子核のうちでもっとも軽い水素原子核を使用した陽子線治療と炭素原子核を使用した炭素イオン線治療です。
炭素イオン線治療については、陽子より重い原子核を使っているため、重粒子線治療、重イオン線治療と呼ばれることもあります。

Q04陽子線と炭素イオン線(重粒子線)の違いは?

生物学的効果に違いがあります。生物学的効果とは同じ線量における細胞殺傷率の違いを表しています。陽子線の生物学的効果は、X線や電子線とほぼ同じですが、炭素イオン線(重粒子線)は腫瘍に対しても正常組織に対してもその2~3倍の生物学的効果を持っています。

Q05陽子線治療と炭素イオン線(重粒子線)治療の違いは?

炭素イオン線は、Q04に記載のとおり、理論上、陽子線よりも高い生物学的効果をもっているため、1回の照射で得られる効果が高く、一般的に治療回数が少なくすみ、放射線抵抗性が高い腫瘍への効果も高いと考えられています。しかし、逆に、生物学的効果の高い炭素イオン線(重粒子線)では周辺正常組織を傷つけてしまう可能性が陽子線よりも高くなります。治療の良し悪しは正常組織に与える影響と腫瘍に与える影響のバランスで決まってきますので、腫瘍の種類や正常組織の状況によって左右されます。また、炭素イオン線(重粒子線)治療では、粒子線を強力な電磁石で曲げるガントリーといわれる装置(陽子線治療について参照)を陽子線よりも非常に大型にする必要性があるため、陽子線治療では標準となっているガントリーも現状では限られた施設しか保持していません。ガントリーが使用できると、いずれの角度からでも照射が可能となるため、より腫瘍に限局した治療が実現できます。しかし、陽子線治療も炭素イオン線(重粒子線)治療のいずれもが、大変良い治療であることには変わりなく、個々の腫瘍形態や場所によっていずれが勝るか個別に判断せざるを得ないのが現状です。臨床的にも陽子線と炭素イオン線(重粒子線)との治療効果の差は示されておりません。

Q06前立腺癌においての手術と陽子線治療の違いは?

一般的に陽子線治療は、性機能障害や排尿障害の可能性が手術より低いといわれております。一方で、直腸への障害は手術よりも放射線治療で多いといわれており、陽子線治療を用いて直腸への照射線量を減らす努力をしています。

Q07前立腺癌においてのIMRT(強度変調放射線治療)と陽子線治療の違いは?

陽子線が腫瘍をこえると止まる性質から(陽子線治療の特徴 参照)、周辺の正常組織への影響をIMRTと比較して抑えることができます。

Q08陽子線治療の対象疾患や費用は?

疾患名 備考 金額(万円) 採用年
保険適用 小児がん 237.5※1 2016
骨軟部腫瘍 手術で根治困難 237.5※1 2018
前立腺がん 160.0※1 2018
頭頸部悪性腫瘍 口腔・咽頭部を除く 237.5※1 2018
肝細胞がん 長径4㎝以上 237.5※1 2022
肝内胆管がん 237.5※1 2022
局所大腸がん 術後再発のみ 237.5※1 2022
局所進行膵がん 237.5※1 2022

※ 1:自己負担額はこの金額に保険割合をかけた額となります。高額療養費制度も利用可能です。

大分類 疾患
先進医療 脳腫瘍 神経膠腫、神経膠芽腫、髄膜腫、その他のまれな脳腫瘍 316.0 万円
頭頚部腫瘍 頭頚部扁平上皮がん、
肺縦隔 限局性肺がん、局所進行非小細胞肺がん、縦隔腫瘍
消化管 食道がん
肝胆膵 肝細胞がん、胆道がん
泌尿器 膀胱がん、腎がん
転移性腫瘍 3個以内の肺・肝転移、リンパ節転移
腫瘍が限局している点が重要です。表にある通り、8つの疾患が保険収載されています。その他の多くの疾患が、先進医療の対象となっています。
更に、それらの枠外であっても、当院の陽子線適応判定委員会で陽子線治療施行に意義があると考えられた場合は、自由診療での治療が可能です。

Q09放射線腫瘍科受診から陽子線治療開始までの流れは?

放射線腫瘍科初診後に、全ての患者様に対して1人1人陽子線治療の適応であるかどうかを確認していきます。院内の関連複数診療科の医師、医学物理士、放射線技師、看護師などの複数職種からなる陽子線適応判定委員会において、陽子線治療の適応かどうかを議論します。
陽子線治療の適応と判断されますと、2回目の来院時に陽子線治療の日時、線量、回数等について詳細に説明をさせていただき、治療に同意された場合は、そこから治療計画に入ります。治療計画用CTや必要に応じて造影CT、MRIなどを撮像し、過去のMRIやPET/CT等の他画像と合わせた上で治療計画を作成します。そして、その治療計画が正確に実施できるかどうかの検証を行ったうえで、陽子線治療を開始します。そのため、治療計画CTから開始まで1-2週間程度の日数をいただきます。

Q10実際の陽子線治療はどのような感じですか?

実際の治療は、週5日間(基本は平日、祝日がある場合は土曜日振替の場合もあり)で施行し、痛くも痒くもなく、20分程度治療台にゆったりと横になっているだけで終わります。ご負担の少ない治療であり、陽子線治療のみであれば、通常外来通院での治療が可能です。治療回数につきましては、疾患や病状に伴い変わりますが、前立腺癌であれば20−21回での実施となります。

Q11当院での陽子線治療の特徴は?

日立製の最先端の陽子線治療設備が整い、回転ガントリー(陽子線治療について参照)とガントリー搭載型コーンビームCT(CBCT)を使用しております。そのため、治療直前の患者様の体内状態をCTで撮像し位置を合わせることが可能であり、治療計画時に評価した状況にあわせた照射ができます。
また、肺や肝臓のように呼吸等で位置が変動してしまう腫瘍については、動体追跡照射技術と呼吸同期システムのいずれもが搭載されており、個々人に適した方法での治療提供が可能となっております。動体追跡照射は、腫瘍近傍にマーカを留置し、マーカを指標としてそのマーカが照射すべき位置にきたタイミングのみで照射を行う方法です。呼吸同期システムは、体表の動きを計測するレーザー計測機を用いて、一定の呼吸相にタイミングを合わせて照射を行う方法です。いずれも、腫瘍の体内運動に対応した高精度な照射となり、周辺の正常組織への照射線量低減につながります。
呼吸同期システム
スポットスキャ二ング
陽子線の照射方法については、スポットスキャニング法を使用しております。従来のブロードビーム法は、加速装置で作られた陽子線のビームを拡大させて腫瘍の大きさに広げ、そこから腫瘍の形に合わせた板を通すことで、腫瘍にあわせた照射を行っていました。そのため、個々人の腫瘍にあわせた板の作成が必要でした。一方、スポットスキャニング法は、細い陽子線のビームを電磁石で作成し、腫瘍形態にあわせ腫瘍を塗りつぶすように照射する方法です。そのため、複雑な形態の腫瘍にも適しています。ブロードビーム法と比較し、散乱体を通すことがなく、二次発癌(放射線照射に伴う発癌)に関与する放射線照射に伴い発生する中性子線も有意に抑えられると報告されています。陽子線治療機が設置されている先端医療センターには、ポジトロンCT(PET/CT)が入りました。これは、腫瘍の存在範囲を把握するのに優れた診断装置です。この高度診断機器を治療計画に取り入れるとともに、治療後の経過観察に使用し、他の施設と差別化する陽子線治療を行っていきたいと考えております。