先端医療センター概要

包括的がん治療を湘南鎌倉総合病院で具現化する構想は、当院が元の鎌倉市山崎にあった旧病院を現在の場所に新築移転した2010年の当時、既に先達の中で温められておりました。10余年も前に、世界の医療の潮流を読み、その中にある未来の当院の姿が明確なビジョンとして描かれたことに感服いたします。2021年4月の先端医療センターの竣工は、そうした先達の壮大な構想を、実現に大きく近づける大きな一歩となりました。
さて包括的がん治療とは、従来のがん3大治療である外科手術、化学療法、放射線療法といった集学的な治療法に、緩和ケア、看取り、精神的ケアなどを加えたものを指します。当センターはここに、出来るだけ侵襲が少なく、多様なガンに奏効する治療選択肢を加えていく方針でおります。既に最先端の陽子線治療を加えたほか、将来はBNCT(中性子線捕捉療法)といった一層先端的な医療の導入も視野に入れております。核医学を用いた診断(PET/CTなど)は早期にガンを診断できる医療の大きな進歩の一つです。なお当院では、個々の患者さんに最適な治療法の選択を、関係する診療科の医師、薬剤師など多職種で検討する会であるキャンサーボードも盛んに開催しております。
また先端医療はがん治療にとどまりません。予防医学センター・再生医療科を含めた湘南先端医学研究所などをトータルに運営することで、私どもは患者さん個々に最適な治療を行うプレシジョンメディスン(細密医療)の新たな一歩も踏み出しております。
このように最先端の医療を具現化する一方で、私どもは「救急は断らない」「命だけは平等だ」という理念を忘れず、現在も「弱者を置き去りにしないやさしい病院作り」を目指しております。
ましてや、基本的な治療を終え治療の選択肢に乏しい、いわゆる「がん難民」と言われる方々や、心疾患、糖尿病、腎不全、認知症など多様な疾患を併発しているがん患者さんに対し、総合病院としての力を発揮してその受け皿となり、「がん患者さんを断らない」方針を貫いていきたいと思います。
皆様の今後とものご理解ご支援をお願いいたします。

先端医療センターの開設にあたって
湘南鎌倉総合病院は、令和3年4月に先端医療センターを竣工いたしました。この施設は保険診療以外の先端的な医療を取り入れながらがん診療や再生医療を推進することを目指しています。 そして特にがん診療を充実していく上で以下のような幅広く定義した包括的がんセンター構想を基軸として運営していく方針です。
- 米国のがんセンターと同様に診療だけにとどまらず、研究、教育も行う。
- 単にがんの治療のみを行うのではなく、総合病院の強みを活かし、合併症を含め包括的な診療ができる体制を持つ。
- がんを治すための治療だけではなく、周辺の医療である緩和医療、支持療法、精神的サポートも含めて行う。
先端医療センター内には、高度な放射線診療関連の設備がいくつか整えられています。
一つは、陽子線治療装置です。多くの限局性の疾患が陽子線治療の対象となり得ます。前立腺がん、小児がん、骨軟部腫瘍、頭頸部悪性腫瘍、肝細胞がん、肝内胆管がん、局所大腸がん術後再発、局所進行膵がんの陽子線治療が、現在、保険収載されています。さらにいくつもの疾患が先進医療に採用され、また、これらの枠外でも当院の陽子線適応判定委員会で陽子線治療施行に意義があると考えられる場合には自由診療での治療が可能です。
もうひとつの高度放射線治療装置はほう素中性子捕捉療法(BNCT)の加速器装置です。BNCTの現在の保険診療の対象は、切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌です。現在、令和5年4月ごろの臨床開始を目指して調整しています。
さらに、病院内で放射性同元素を薬剤に標識合成する施設があります。PET用のサイクロトロンと自動合成設備が整えられ、保険診療が認められているFDG PET/CT検査を中心に行います。今後、FDG以外のPET検査も自由診療として取り入れていきます。
陽子線治療、BNCT、PET/CT検査はいずれも患者さんに優しい治療法、検査法です。保険診療が中心となりますが、いずれも適応範囲が限定されているため、少しでも多くのがん患者さんの二―ズにお答えするために保険外診療も支援する方向で運営致します。
また、将来は我が国で導入が遅れているアルファ線核種治療にも挑戦したいと考えております。そのために、徳洲会の厚生労働省認定の臨床研究審査委員会を活用した特定臨床研究や、先進医療B、自由診療を、患者さんの理解を得て安全に進められる体制づくりを目指します。
先端医療センターでは、女性がんを扱う乳腺外科、婦人科、陽子線治療装置·BNCTを扱う放射線腫瘍科、オンコロジーセンターが外来診療を、またPET/CT検査などを行う核医学診療部門、検診を行う予防医学センター(健康管理センター)、再生医療センター、治験や臨床研究を担当する臨床試験センターが活動を行います。
さらに持続的に先端医療を推進していく上で人材育成も大切と考えます。現在、当センターは、米国でNo1.にランクされたMDアンダーソンがんセンターの陽子線治療部門への当院の先生方の留学をサポートしています。さらに将来の組織的な交流に繋げていければと考えております。
当センターの運営に皆様のご理解とご支援を頂ければ幸いです。
PET/CT

先端医療センター長補佐 / 臨床PET担当部長 寺田 茂彦
「断らないがん治療・がん難民を出さない」
2021年春に湘南鎌倉総合病院は先端医療センターを開設致しました。当院は「生命だけは平等だ」を理念の柱として「断らない救急医療」をコンセプトとして参りましたが、当センターでは「断らないがん医療」も実践して参ります。PET/CTを皮切りに陽子線、BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)といった最先端の画像検査、放射線治療、外来化学療法を行うオンコロジーセンター、もちろん本院では外科治療も行いますので、同一施設内でワンストップの包括的がん医療が可能となり、将来的にはα線を用いたRI内用療法も計画しており、さらに健診センターや再生医療センターも擁しています。地域医療への貢献も当然ながら、日本全国ひいては世界も視野に、がんで悩める患者様に寄り添う医療を展開していく所存です。私事になりますが、私自身も母をがんで最期は自宅で看取りました。がん患者様やご家族のお気持ちは我がことの様に感じます。
先生方におかれましても大切な患者様をご紹介頂けましたらスタッフ一同、誠意を込めて対応させて頂きます。先端医療センターにどうぞご期待ください。

先端医療センター / 核医学診療担当部長 川本 雅美
「PET/CTは高分解能で詳細な診断を可能にする画像検査です。」
PETとはpositron emission tomography (陽電子放出断層撮影) の略称です。
ポジトロン(陽電子)という放射線を出す物質を含んだ薬(放射性薬剤)を投与し、そこから出る放射線を検出することにより、薬の体内分布を画像化します。
現在、最も広く利用されている薬剤はFDG(正確には18F-FDG)というブドウ糖によく似た薬であり、ブドウ糖代謝の盛んなところ、たとえば脳や心臓などの正常臓器、腫瘍や炎症などの病気がある部位に集まります。FDGが集まったところから出てくる放射線を体外から検出して、ブドウ糖の代謝を反映した画像をつくり、病気の存在や活動性を評価します。
CTやMRIなど従来の画像検査が臓器の形の異常をみるのに対し、PETではブドウ糖代謝などの機能的な異常をみます。臓器の大きさや形では判断できないときに、その機能をみることで病気を診断します。
現在ではPETとCTを組み合わせたPET/CT装置が一般的です。PET検査とCT検査を一度におこない、FDGが集まった部分とCT画像との比較が簡単にでき、病気の存在する部位を正確に診断することができます。
当センターではシーメンスヘルスケア株式会社製のPET/CT装置、Biograph Horizonを導入しています。この装置はノイズを大幅に削減する技術や高速の画像再構成エンジンを搭載しており、より正確で効率的な検査をおこなえます。
陽子線治療

放射線腫瘍科 / 陽子線治療部長 徳植 公一
陽子線治療という一点に放射線を集中できる夢の放射線治療が2022年1月に湘南鎌倉総合病院先端医療センターにオープンしました。
治療の適応は一人の医師の判断で決めるのではなく、複数科の医師、多職種が一同に会する陽子線治療適応判定委員会において決定しており、より適切な治療を提供できるものと考えています。
腫瘍に効率よく放射線を集中できるため、効果的で副作用の少ない治療となります。切らずに、痛みや痒みもなく、麻酔の恐怖もなく、毎日約15分間、治療台に寝ているだけで治療は終了します。働きながら治療を受けれますし、生活のリズムを変える必要もありません。
他の陽子線治療施設に誇れることは、治療計画用PETを用いた治療計画を行えることであり、症例によっては治療計画の精度が上がります。24時間、365日受け入れ可能な総合病院機能を利用して、基礎疾患を持った患者さんにも安心て治療を受けていただくことができます。
放射線治療

放射線腫瘍科部長 大村 素子
もっと知ってほしい、放射線治療ができること
What radiation therapy has to offer
放射線治療はがん治療のなかで、様々な種類や部位の腫瘍に対して、また初回治療から進行期、終末期まであらゆるステージにおいて、効果的に用いられる治療です。前立腺癌など治癒に導く根治治療は広く認知されています。しかし、症状緩和を目的とした放射線治療が患者様のQOLを劇的に改善させることや、少数の転移再発に対する放射線治療によって病勢の制御を行うという役割についてはまだ十分に知られていません。いずれもその後の継続治療や生活の選択肢を広げ、予後を改善することに繋がる重要な治療です。
私たちは、患者様の治療の過程で、ご病状、背景にあわせた最適な放射線治療をタイミングよく提供できるよう、院内外の医療スタッフと連携していきます。そしてがん治療における放射線治療の様々な役割を広く知っていただけるように努めていきます。
当院では最新鋭の高精度放射線治療機器TomoTherapy®二台を用い、知識と経験と熱意のある多職種スタッフが協力して患者様の治療をサポートしています。
予防医学センター

予防医学センター長 中島 留美
超高齢社会、多様性を認めていく社会において、後悔しない人生、幸せな人生を送る上で必要とされることは、個人レベルでの最適な医療“プレシジョン・メディシン”です。
よりよい生き方をデザインするためには、ヘルスリテラシーを向上させ、身体の状況を把握しておくことが必要となるでしょう。PET/CT検診では、一度にほぼ全身を撮影し、がんや活動性炎症の有無について確認すると共に骨格の形態的な変化について把握することも可能です。皆様の病気の早期発見だけではなく、未病の改善、病気にならない身体作りに取り組むことができるような支援をし、受診すればするほど幸せになっていただけるような健診機関を目指して参ります。

健康管理科部長 酒井 規
令和3年4月に健康管理センターは、新たに癌の早期発見に期待出来るPET検査機器も導入され、未病の段階で予防していける健康管理を目指して行きます。
予防医学センターのキーコンセプトは、ウエルエイジング(well aging)です。健康的で、若々しく歳を重ねてくのが目標です。そのお手伝いとして、快適で、心地よく検査を受けていただき、体の問題点がないかを確認しつつ、今後の健康管理に役立てて頂きたいです。
ドックなどの健診はただ受けるだけでは不十分です。検査を通して、各々の問題点や弱点を確認し、それを修正するための生活習慣などを見直し、ウエルエイジングに結びつけたいのです。
そのためには、健康を一緒に作っていく作業が必要と思います。今後はそのお手伝いも積極的にサポートさせて頂きたいと思います。
来年もまた受診したいと思える様なドックを作っていきたいと思いますので、今後とも宜しくお願い致します。
未病治療部門

未病治療診断科部長 浅原 孝之
「世界の最先端医学研究を市民医療に届けます。」
湘南鎌倉総合病院は、すでに最新の血管再生治療を実現してきております。今後、より多くの方に画期的な診断・治療を届けるため、「湘南先端医学研究所」を湘南ヘルスイノベーションパーク内に設立しました。
湘南先端医学研究所では、国内及び海外の先鋭研究者を集積し、再生医療・癌治療の基礎研究を進めると共に、開発された診断・治療技術を「湘南鎌倉総合病院 先端医療センター」の細胞培養・ゲノム細胞分析センターならびに予防医学センターの臨床で実現していきます。
予防医学センターでは、研究所の再生医療研究チームが開発した細胞解析技術を利用して、自分の血液細胞が持つ「再生力」を判定することが出来ます。細胞培養・ゲノム細胞分析センターでは、世界で初めての先端再生治療の準備が開始されます。
再生治療部門

副院長 / 再生医療科部長 大竹 剛靖
最先端の再生医療を「当たり前の医療」として多くの患者様へ提供
再生医療センターでは、再生医療等安全性確保法を遵守した最先端の再生医療を、1人でも多くの患者様に「当たり前の医療」として提供できることを目指しています。
現在は、これまで有効な治療法が確立していない疾患、[透析患者重症下肢虚血(先進医療B)、急性腎不全(臨床研究)、脊髄損傷(臨床研究)、肝硬変(臨床研究)]に対して自己末梢血由来CD34陽性幹細胞による再生医療を提供しています。また、重症下肢虚血は、透析患者さん以外でも再生治療を受けられるよう体制を整えています(自由診療)。2022年より、新規に「慢性腎臓病(CKD)」に対しても細胞移植治療を開始しました。
これからも、より多くの疾患で再生治療を提供して行きたいと思います。